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技術力 ミシンの優秀さをつくる技術

華やかなアパレル業界を舞台裏で支える、縫製工場。そこでは工業用ミシンがずらりと並び、オペレーターたちは無心に手を動かしている。
視線の先には、目にも留まらないほど高速で動くミシンの針。1分間に7,000~10,000回転と、家庭用ミシンとは比べものにならないスピードである。

考えてみてほしい。車のエンジンでさえ、通常走行ならエンジンの回転数は約3,000回転以下。しかも、縫製工場で使われるミシンは、1日10時間以上も連続使用される。それはつまり、車よりも精密な性能と耐久性が求められるということ。
車のように脚光をあびることは少ないが、世界中の人々が身につける衣類がつくられる現場で、欠かせないもの。1分たりとも止まることを許されないもの。
それが工業用ミシンなのだ。

世界各地の縫製現場をささえる、高品質と耐久性。

「あれだけの高速回転で回しても、焼き付きもせず、油もれもしないって、実はすごいことなんですよ」研究開発部の向井は言う。
「しかも、使用される環境はきわめて過酷だし、世界各地だから気温だってぜんぜん違う」。

温度や湿度の異なるどんな環境でも、1分間に7,000~10,000という高速回転を延々続けられること。
ミシン内部には鉄の部品が摩擦を繰り返しても摩耗しないよう潤滑油が入っているため、それがもれれば商品の不良につながりかねない。工業用ミシンに求められる耐久性は、想像以上に高いのだ。

「当社はもともと、1964年にイギリスのコートルーズ社が実施した国際的な耐久テストを唯一クリアしたことで、世界のトップブランドとして認知された経緯があります。それ以来、耐久性テストに力を入れる姿勢は、当社の伝統になっています」若手の久原も続ける。温度と湿度をあえて厳しい基準に設定した空間で、ゴムや樹脂など、特に劣化が心配される部品について個々に耐久テストを行っているのだ。

業界全体で今もっとも課題とされる油もれ対策についても、一石を投じている。
オイルシールと呼ばれる油もれを防ぐ部品は、通常、高速回転の機種に取り付けるのは難しいとされてきたが、ペガサスは独自のオイルシールを開発。部分的に交換もできる構造にすることで市場から高い評価を得ている。

必要とされるのは、ミクロン単位の精密な組立技術

工業用ミシンは、本体となるフレームと、500点以上にも及ぶ部品で構成されている。言い換えれば、組立の一つひとつの作業を500回以上経て、やっと完成するということ。だから、1箇所のズレがたとえ1ミクロンだったとしても、ミシン全体の精度はどんどん落ちてしまう。

特に、メインシャフトと呼ばれる、モーターの回転を針の往復運動に変える心臓部は、絶対にずれてはいけない根幹部分。メインシャフトにはいくつもの仕切りや径の異なる穴が開けられるが、端から端まで何層にも重なる穴は寸分の狂いもなくぴったりと揃っている。それは、機械や精度といった無機質なものを超えて、芸術的な美しささえ感じてしまうほどだ。

「このメインシャフトとフレーム本体の加工に関しては、絶対に外には出しません」生産技術部の村長は言い切る。他社が外注をよぎなくされるなかでも、ペガサスのミシンの心臓部分は創業以来ずっと守られてきた。ミクロン単位というレベルで精度を管理できる加工技術があるからこそ、工業用ミシンの分野で世界トップブランドの地位を確立できたといえる。

多品種小ロットの生産性を支える、生産技術のちから。

なぜ、そこまで社内でつくることにこだわるのか?
「外にまかせてしまうと、だんだん中身が分からなくなるんですよ。自社で技術を守っていれば、不良品が発生した場合でも、どこを修正したら改善できるかがすぐに察しがつく。海外工場へのアドバイスも同じように早くできる。それが品質につながりますから」と村長は語る。フレームを作る機械自体も専用のマシン。常に自社でメンテナンスまで行っている。

そして、工業用ミシンの世界はさらに奥深い。縫製工場では一人ひとりの持ち場が決まっていて、袖口を縫う人のミシンと肩の縫い合わせをする人のミシンは異なる。だから、ペガサスがつくり出す種類は約3,500。高い精度を保ちながら、多品種小ロットに対応するためには、生産技術と組立効率の力が問われる。

「部品をつくるための補助具である治具も、社内で設計製作しています。これはミシンよりさらに精度が求められるんです」。そこには、長い歴史のなかで、より高い精度や市場ニーズに応えるために脈々と蓄積されてきた技術の重みがある。今日の取り組みは、明日へと積み重ねられていく。

数万点にもなる部品。その検査基準書を海外拠点に。

治具(補助具)を語るうえで外せない男がいる。
ひとりで部品検査の基準書をつくり、年間約1/3は海外工場にも足を運んで、ペガサスミシンの品質保証を一手に担っている村本だ。

「部品一つひとつの精度が確保されないと、いくら正確に組み立ててもだめ。いい部品を使っているかどうかが品質の分かれ道でもあります」。
ここにもまた、精度を追求する鋭い目が存在する。

村本が行っているのは、まず品質チェックをするための検査方法を考えること。誰が検査してもばらつきがなく、同じ測り方ができるように基準書をつくり上げる。基本的には、部品メーカーが各自に品質チェックを行っているので合格であることが前提だが、その上でさらに合格判定を出すための関門づくりである。
そのためには、検査用の測定治具も開発する。ミクロン単位の基準を測るためには、それを手助けする治具の精度も欠かせない。

そんな村本が今もくろんでいるのは、基準書を海外工場にまで波及させること。その数は数万点に及ぶが、自分が足を運ばなくても現地スタッフが同じレベルで検査を行うことができれば、さらに精度も効率も上がるはず。そんな果てしない作業の積み重ねが、品質管理の現場を支えている。

ミシンで培った生産・加工技術を、ダイカスト部品製造に昇華。

工業用ミシンで培った精密加工技術。それは、ダイカスト部品の生産工程でも大きな強みを発揮している。
ミシン業界よりさらに競争が激しく、品質管理の追求が非常に厳しい自動車業界。そこで世界の自動車部品メーカーを相手に要求を満たしながら多くの部品を提供、さらに拡大を狙うポジションにいることは並大抵ではない。

「品質管理がとてつもなく厳しいこの業界で生き残っていくには、突き抜けた品質力と価格競争力が必須だ。一年365日、つねに戦いです」とエネルギッシュに語るのは、天津法人代表の高と、ベトナム法人代表の原口。

たとえば、金型にアルミを流し込み、何百トンという圧力でプレスしてできる部品には、いくら金型の精度を上げても「バリ」と呼ばれる余分な部分が発生する。その表面をきれいに加工するバリ取りの工程で、ミシンで培った加工技術が生かされるというのだ。
「余分な部分を取り除くのではなく、加工するという発想が当社の強み。100年の積み重ねが新たな分野で生かされたということです」。

「絶対、外には出さない」というミシン本体のフレームをミクロン単位で仕上げる「こだわり」は、新たな分野でも生かされている。多品種小ロットでの加工技術は、自動車業界の大量生産でも堂々と勝負しているのだ。
工業用環縫いミシンの専業メーカーとして着実に築き上げてきた、ものづくりのスピリット。その根本が揺るぎないからこそ、異なる分野でもすぐれた製品へと昇華させることができるのだ。

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